『付喪堂骨董店』
ここ数作、予備知識なしで呼んだ本に当たりがなかったので、
同時期に買ったこの本にも
そこはかとない不安を感じていたのですが、
よっしゃ。
久しぶりに当たり引いた。
僕は単純にこういうテイストのお話が好きなんでしょうね。
まずはあらすじを。
この世界には『アンティーク』と呼ばれる物がある。
年代物の骨董品や古美術品のことではない。
幸運を呼ぶ石、未来の姿が映る鏡など、不思議な力が宿った器物を指す。
世の中は広いもので、そんな怪しい物を扱う店があったりする。
付喪堂骨董店〜FAKE〜。
だが、名前の通り扱っているのはそれの偽物ばかり。
無愛想な少女が不気味な品ばかり勧めるので
閑古鳥が鳴いている胡散臭い店なのだ。
でも、ごくまれに本物が舞い込んでくるから面白い。
では、そんな変わった品を手にしてしまった人たちのことを、
これからお話しよう。
思い描いた偶然を現実のものとする振り子。
触れればどんな病も治るという逸話を持ち、
触れれば不治の病に冒されるという逸話を持つ像。
書いたことは決して忘れないというノート。
その日の稼ぎをその日のうちに使いきってしまわないと
お金が消えてしまうという財布。
4つの”アンティーク”を巡る短編が収録されています。
テイストとしては初期の『xxxHolic』に似た感じかな。
この中だと……ノートが一番欲しいなぁ。
昔、妹と娘っ子に
”あなたの宝物は?”
と訊かれたことがありました。
僕の答えは”記憶”でした。
こんなことがあったってことも、全て覚えてたい。
こういう、ノスタルジックな気分にさせてくれる本は大好きです。
えぇ、後ろ向きですが、何か。
この『付喪堂骨董店』、5冊程シリーズが続いてるみたいで、
まだまだ楽しませてもらえそうです。
よっしゃ。
『そうやって、僕は偶然によってさまざまなものを手に入れた。
だけど偶然で手に入るものには限界がある。
偶然で全てが手に入るわけじゃない。
偶然で全てが思いどおりになるわけじゃない。
偶然、同じクラスになったあの子の心は
僕のものにはならなかった。
偶然、同じ委員会になったあの子の心は
僕のものにはならなかった。
偶然では僕の一番欲しいものは決して手に入らない。
――人の心は手に入らない。』
- 作者: 御堂彰彦,タケシマサトシ
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2006/10/01
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『キラレ×キラレ』
今日は中学時代からの友人二人とお出かけ。
カフェを2店ハシゴして、4時間ほどくっちゃべってました。
彼らと話しているといつも思うこと。
世の中にはいろんな趣味・嗜好の人がいる。
ほんとに奴らの話にはいつもあっけにとられます。
そんな友人の片方に薦められた森博嗣氏の本。
薦められたのはずいぶん前だったんですけどね。
森氏のミステリーを読むのはこれが初めてで、
所謂”新本格”と呼ばれるミステリー作家であること、
某国立大学の工学部助教授であったこと、
おまけで出身地が僕と同じなことぐらいしか知りませんでした。
まずは『イナイ×イナイ』のあらすじから。
「私の兄を捜していただきたいのです」
美術品鑑定を生業とする椙田事務所を訪れた
黒衣の美人・佐竹千鶴はこう切り出した。
都心の一等地に佇立する広大な佐竹屋敷、美しき双子、
数十年来、地下牢に閉じ込められているという行方不明の兄・鎮夫。
そして自ら“探偵”を名乗る男が登場する。
旧家で渦巻く凄惨な事件の香り…。
続けて『キラレ×キラレ』のあらすじを。
「この頃、話題になっている、電車の切り裂き魔なんだけれど―」
三十代の女性が満員の車内で、
ナイフのようなもので襲われる事件が連続する。
“探偵”鷹知祐一朗と小川令子は
被害者が同じクリニックに通っている事実をつきとめるが、
その矢先、新たな切り裂き魔事件が発生し、
さらには殺人事件へと―。
犯行の異常な動機が浮かび上がるとき、
明らかになるものとは…。
この2作の読後感をなんと表現したらいいのか。
ずっともやもやした気分が晴れずにいます。
無理矢理に表すなら――
――怖い。
内容はわりとシンプルな、
無駄を削ぎ落としたようなミステリーで、
軽妙な会話とテンポで読ませ、
結末はあえてぼかしたような印象でした。
その内容が怖かった訳ではありません。
登場人物が怖かった。
みんな淡々としてるんです。
淡々と自分の役割をこなしていくんです。
人が死んでいるのに。
探偵役、ワトソン役だけではなく、
殺された被害者に近しい人たちもみんな、淡々と。
人が死んでいるのに。
西尾維新氏の『戯言シリーズ』のいーちゃんみたいに、
そういうキャラ設定であるなら構わないでしょう。
そうではなく、誰も彼も皆、感情が無いように見えるんです。
どうしてそんな風に振る舞えるんだろう。
君たちは犯人を探すことにしか興味がないのか。
君たちはトリックを暴くことにしか興味がないのか。
それが本当に怖い。
世の中にはいろんな人がいる。
わかってはいても、それを受け入れるのは、
それほど簡単なことではない。
僕にはミステリーを読む素養が
備わっていないのかもしれない。
つまらないお話だったわけでは無かっただけ余計に、
そう思ってしまいます。
『まぁ、これが普通だね。
君はまだわからないかもしれないけれど、
探偵なんて仕事は、だいたい、こんなもんだよ。』
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/10
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- 作者: 森博嗣
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『零式』
このところ、ちょっとSFを読みたい気分になっていたので、
ハヤカワ書店コーナーを重点的に見回してました。
僕は海外の作品が(SFに限らず)あまり得意ではないので、
『雪風』みたいな和製SFを探していたときに見つけた本、『零式』。
まずはあらすじを引用します。
大戦末期の1945年、
帝国本土への遠征特攻を敢行した皇義神國は、
報復の原子爆弾投下により全面降伏する。
そして半世紀後、帝国統治下で鎖国状態の神國。
原始駆動機“鋼舞”を駆る孤独な少女・朔夜は、
己の破壊衝動をもてあましていた。
しかし運命の夜…朔夜の荒ぶる心臓と、
囚われの天子・夏月の夢見る翼が出会うとき、
閉塞世界の根底を揺るがす大いなる物語が幕を開ける―
期待の新鋭が描く、疾走と飛翔の青春小説。
今、思えばこのあらすじで充分地雷の匂いがしてるなぁ。
これを読んで、なぜか勝手に
”レシプロ機の空戦SF物”
だと勘違いしてしまったんですよね。
架空未来の女リヒトホーフェンみたいな。
だってプロローグに零戦とか特攻隊とか出てきたし。
まさかレシプロのバイクだったとは……。
バイクとか、昔から全く興味ないんですよ、僕。
いや、バイクレースとかは嫌いじゃないんですけど、
なんていうか、こういう暴走族とか走り屋的バイクには、もう全く。
そういえば作中に暴装賊なんて言葉も出てきたな。
しかも”ナイトライブス”なんてルビが振ってあったり。ぷぷっ。
内容も体制の抑圧に抗う少女、みたいな。
僕は、盗んだバイクで走り出そうと思ったこともなければ、
校舎の窓ガラスを割りたいと思ったこともないので、
このてのテーマは苦手でして。
ただのちんぴらじゃん。
今でもこういう文化をカッコいいと思う感覚がわからない。
SEX,DRUG&VIOLENCE――
さすがにもう、そんなものに憧れる年齢でもないですしねぇ。
作者のあとがきも、
なんか妙にばんから無頼を気取ってる感じでいただけない。
本人は青春娯楽小説とか成長物語とか謳ってるけど、
こんなものを娯楽だと思えるような腐った青春を
僕は送ってこなかったし、これからも送りたくないし、
こんな成長の仕方もしたくない。
とにかくいろいろカッコ悪いと思ってしまう小説でした。
『つまり、やってることは、
6000馬力を使った押しがけ。
無様で原始的な発動機始動法』
- 作者: 海猫沢めろん
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/01/01
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表紙絵をよく見たら、ちゃんとバイクに乗ってんじゃん……。
『紅はくれなゐ』
ライトノベルにしてはちょっと異質な表紙絵。
あらすじを読んでみると、
どうやら遊郭で展開されるミステリー物。
うん、これは面白そうだ。
西尾氏の新作を読んで以降、
メルトダウン寸前までに高まった読書熱にあおられて
深く考えず衝動的に手に取った本、『紅はくれなゐ』。
Amazonのあらすじを引用します。
華やかな活況を見せる遊郭都市、吉原。
街一番の妓楼・秋月楼の花魁『紅』は、
そのおっとりとした優しさと美しい容貌で、
高い人気を誇っていた。
この吉原で、続けざまに殺しが起こる。
被害者はいずれも遊女と国の高官。
街に不穏な空気が漂いはじめたある日、
正月の大行事“花魁道中”を控えた紅の元に、脅迫状が届く。
彼女の身を案じた周囲は道中の中止を勧めるが、
紅は行事の強行を決意する。
そして花魁道中当日…。
果たして、殺しを続けているのは誰なのか?
そして、その狙いは?
愛と憎しみの黒い渦に巻き込まれた、
若く美しき花魁の行く末や如何に―。
このあらすじを読んで、
和風本格ミステリーを期待した僕は間違ってませんよねぇ。
最初はミステリーテイストが強かったんですが
途中から時代活劇になってしまいました。
後半の戦闘シーン、
主人公の紅も周りを囲む脇役も
みんなカッコいいのですが、
それぞれの戦う意味がどうしてもわからない。
より正確に云うなら、そこまでして戦う意味が、かな。
ただの戦闘民族にしか見えない。
それじゃどうして彼女は花魁の道を選んで、
身体を売ってでも生きようとしたのかな。
彼女ほどの能力なら、他にいくらでも方法があったろうに。
もう一つ、舞台が遊郭である意味が伝わってこない。
『遊郭』というのは、なんというか、まぁ、
ああいうことをするところなわけで。
もちろん、それだけではないのはわかってますが、
せっかく遊郭が舞台なのだから
テーマにそういう部分を入れてもよかったんじゃないかな。
(”エロを書け”ということではないです)
身体を売る、身体を買うという行為の持つ意味
そういう場所が存在することの意味にまるで触れていないのは、
――作者は女子高生らしいので、
さすがに抵抗があったのかもしれませんが、
どこか”逃げて”いるように感じました。
文章のリズムも良く、設定も面白いだけに、
”ただただカッコいいシチュエーションをつなぎ合わせた”
ような展開がちょっともったいない気がしてしまいます。
ここまで偉そうに辛辣なことを書いておいてなんですが、
しかし、作者の鷹羽知氏、
”化ける”作家さんな気がします。
実はすごく期待しているんです。
こういう方が大人になったときに、どういう物語を書くのか。
今から楽しみでなりません。
『さて。大戦と洒落込もうじゃないか』
- 作者: 鷹羽知,玉置勉強
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『偽物語(下)』
今月最大のイベント。
待ちに待った西尾維新氏の新刊、
『化物語』シリーズ最新作『偽物語』の発売日。
本の発売日がここまで待ち遠しかったのは
『ファイブスターストーリーズ』以来です。
まずは講談社の公式サイトからの引用を。
青春は、にせものだけでは終わらない。
“ファイヤーシスターズ”の参謀担当、阿良々木月火。
暦の妹である彼女がその身に取り込んだ、
吸血鬼をも凌駕する聖域の怪異とは!?
今回は阿良々木暦のちっちゃい方の妹、
月火がメインのお話ではありますが、
月火ちゃん、ほとんど出てきません。
残念ながら、ひたぎさんも羽川さんも神原も千石ちゃんも
ほとんどお話に絡んできません。
基本的にはでっかい方の妹、火燐ちゃんや
八九寺、忍と暦の掛け合いが大半を占めてます。
くだらないことを喋ってたり
意味も無くラブラブしてたり、
アニメ化を前にしたメタなネタだったり。
なんですが、これがもうめちゃくちゃ面白い。
維新節全開。
声を上げて大笑いしながら読みました。
そしてなにより、今回は主人公・阿良々木暦が本当にカッコいい。
回を重ねるごとにダメ人間になっていく阿良々木君ですが、
今作のクライマックスでの彼の台詞には
何か身につまされるものがあり、
思いがけず泣いてしまいました。
西尾氏の作品は僕の琴線に触れるものばかりで、
ただ面白い、読んでいて楽しいだけではないところが、
僕が彼の作品を好きな最大の理由かもしれません。
後半、ストーリーがやや駆け足になってしまっているのと
『傷物語』以降、妙にエロさが増しているのが気になりますが、
その程度でこの『偽物語』に傷はつきません。
読み終えてしまうのが寂しくて、
途中で読むのを止めたくなったのは久しぶりです。
『「本物や思てた妹が実は偽物やゆうて知ってもても、
おどれはこれまでと同じように、
その妹を愛せるんかいな?」
「愛せるさ。むしろ今まで以上に愛してやる」
「義理の妹なんざ――萌えるだけだろうがあ!」』
『「好感度なんかいらねえよ。僕は最低の人間でいい」と。
僕は――キメ顔でそう言った。
「お兄ちゃん」
あいつがそう呼んでくれるなら。
僕はすべて――それでいい。』
- 作者: 西尾維新,VOFAN
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今作で完結の予定だった『化物語』シリーズですが、
あと2作、八九寺メインの『傾物語』と
羽川翼がメインの『猫物語』が刊行されることになったそうで、
もう欣喜雀躍、こんなに嬉しいことはありません。
しかも今年中に発売予定。
西尾さん、本当にありがとうございます。
もう一つ、今作において特筆ものなのが、表紙絵の美しさ。
この絵が表紙なら、西尾氏の本じゃなくても手にしていた思います。
『傷物語』も含め『化物語』シリーズは全て
VOFANという台湾の絵師さんが手がけているのですが、
僕の中で、現在No.1のイラストレーターです。
だからこそ余計にアニメ版の絵が納得できないんだよなぁ。
おまけでついてきたリーフレットに
主要キャラのアニメ版のイラストが描かれていたのですが、
あまりにもイメージと違いすぎて悲しくなりました。
っていうか、せめて原作の描写にぐらいは合わせようよ。
ひたぎさんがミニスカート履いてちゃダメだろ。
ストーリーの根幹に関わる部分だと思うんだけどなぁ。
アニメ版、あんまり期待できないかも。
追記
すいません。僕が間違ってました。
今、公式サイトでトレーラー2弾を観てきたのですが
――めちゃめちゃ面白そうじゃん。
多少のイメージの違いぐらい気にしないことに決定。
観ます。絶対に観ます。
http://www.bakemonogatari.com/
『アクセル・ワールド(2)』
今月は発売日が待ち遠しかった本が2冊もあります。
そのうちの1冊、『アクセル・ワールド』の第2巻。
大き過ぎる期待は大きな失望を産むのもわかっているのですが、
あれだけ1巻が面白いと、
どうしても期待値は大きくなってしまいますよね。
Amazonのあらすじを引用します。
黒雪姫との出会いにより、一回り成長したハルユキ。
そんな彼のもとに、
「お兄ちゃん」と呼ぶ見ず知らずの小学生・トモコが現れる。
二人のいちゃいちゃする様子を見た
黒雪姫の冷徹な視線がハルユキを貫く中、
「加速世界」では、謎の事件が勃発していた。
乗っ取られると精神を汚染され、
敵味方関係なくデュエルアバターを襲い続けるという
呪いの強化外装「災禍の鎧」。
殺戮を繰り返す狂気のアバターを捕らえることができるのは、
唯一の「飛行アビリティ」をもつデュエルアバター、
「シルバー・クロウ」のみ。
「鎧」討伐ミッションを課されたハルユキの運命とは!?
本屋さんで裏表紙のあらすじを読んだときには、
なんかエロゲっぽい展開になってしまうのかと危惧しましたが
(いや、多少なってますが)
うん、期待を裏切らない面白さでした。
少しずつではあっても、
大切な人の為に強くなろうとする主人公・肉丸くんハルユキ。
ビルドゥングス・ロマンの王道であり、
ライトノベルの王道でもあるお話ですが、
だからこそモチベーションとしては
一番理解しやすいものではないでしょうか。
ハルユキ、黒雪姫、タクム、トモコ、そしてチェリー・ルーク。
登場人物それぞれの、
”子供らしい”強さと弱さ、意地と矜持がしっかりと描かれていて
彼らが成長していく過程を微笑ましく読ませてもらえました。
ゲームで得た強さや勇気で、現実を変えていく。
もちろん、ゲーム内の強さを自分の強さと勘違いして、
という意味ではありません。
ゲームの部分を漫画、小説に置き換えても成り立つと思います。
虚構の中で得た物が虚構とは限らない。
そうやって積み重ねていく経験だって経験である、ということです。
まだまだ続きそうな『アクセル・ワールド』シリーズ。
登場キャラも増え、チュートリアルも終わってこれからが本番。
完結していない物語の続きを待つのは大の苦手なのですが、
楽しみにしています。
『……僕は……強く……なりたいんだ。
それだけなんだ…。』
- 作者: 川原礫,HIMA
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2009/06/10
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